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2019年7月23日更新

「腰痛と解剖②」理学療法士 田代雄斗先生のコラム

前回は特異的腰痛の解説を中心にしましたが、今回は非特異的腰痛の解説と共に解剖の知識を勉強していけたらと思います。再度確認として特異的腰痛とは医師の診察および画像の検査(X線やMRIなど)で腰痛の原因が特定できるものを言い、非特異的腰痛とは検査を行っても原因が特定しきれないものを言います。非特異的腰痛は主に椎間板性・椎間関節性・仙腸関節性・筋筋膜性の4つに分類されます。それぞれの特徴を理解すると共に、腰椎周囲の解剖を理解することで、治療の際の効果も高まることでしょう。

 

まず椎間板は、各脊椎の椎体間に存在しますが髄核・線維輪・軟骨終板の3つから構成されています。この椎間板の構成要素は加齢により変化しますが、最も変化が顕著なのは髄核で水分含有量は若年時に85%以上ですが、成人では70%程度に低下し、加齢によりさらに低下すると言われています。実際解剖実習を行う際には高齢な方が多いと思われるため椎間板は変性しているものが多いでしょう。ここで椎間板性腰痛についてですが、実は椎間板は人体の中で最も大きい無血管組織であるため椎間板内にはもともと痛みを感じる神経が存在しません。しかし変性した椎間板の線維輪内には自由神経終末と感覚受容器があることが確認されていることから、変性が起きた後には椎間板への直接的な刺激によって痛みを感じる原因になるということです。このような知識をもとに解剖実習を行う際は、椎間板の変性度合いを注意深く観察すると検体の方が腰痛を感じていたかどうかの推測もできるかもしれません。

 

続いて椎間関節に関してですが、この関節は隣接する椎体の下関節突起と上関節突起間で形成される滑膜関節です。各関節突起は2〜4mmの厚さの硝子軟骨で覆われています。硝子軟骨の厚みは椎間関節に加わる荷重負荷に対応していますが、圧縮力が加わると硝子軟骨から水分が押し出され、圧縮力が除去されると押し出された水分は硝子軟骨に再吸収されます。椎間関節のバイオメカニクスとしてはせん断力と屈曲運動が起こります。解剖実習では周りの組織もついているため正確の運動の観察は困難な場合もありますが、人体模型とは違う関節運動の生の様子を観察してもらうとよいと思います。そしてこの椎間関節の関節包には痛覚伝達に関与する神経線維や侵害受容器が豊富に存在するため繰り返される荷重によって変性し痛みを感じます。

 

仙腸関節に関して、まず仙腸関節周囲の受容器29個中28個が侵害受容器で1個のみが固有受容器であったことが報告されてため、仙腸関節の機能は可動性より荷重支持であり、特徴としては運動感覚に乏しく疼痛に敏感であると考えられます。仙腸関節痛と考えられる患者100例を検討した報告によると、仙腸関節裂隙の外縁部を中心とした痛み、鼠径部痛、また大腿外側部から下肢にかけて皮膚分節に一致しないしびれや痛みがみられた例もあるようです。また仙腸関節は平面関節との記載がある教科書もありますが、実際の解剖を観察すると凹凸の存在も確認されています。

解剖実習に行った際は自分の目でその様子を確認していただけると良いと思います。

 

最後に筋筋膜性ですが、腰部には様々な筋肉、そして筋膜が存在しています。深部に存在する腹横筋、多裂筋から表層に向かうにつれて内腹斜筋、腹直筋、外腹斜筋、脊柱起立筋群、広背筋、そして胸腰筋膜など名前を覚えるだけでなく解剖実習ではそれぞれの筋肉に起始・付着、そしてそれぞれの厚さを実際に見られる貴重な機会になると思います。

今回の知識を元に腰部の解剖をより深く理解していただけたら幸いです。

 

 

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田代雄斗先生プロフィール

愛知県豊橋市出身。
京都大学医学部人間健康科学科にて理学療法士資格を取得し、同大学院にて主に腰痛・物理療法・障碍者の就労支援に関する研究を行う。

〈現在の活動〉
・ボート競技のトレーナー活動
今後障碍者ボート競技においては国際クライファイヤー資格取得予定
・競走馬のコンディショニング
下肢や腰部の障害予防や、レース後の疲労回復などを担当
・株式会社HILUCO 代表取締役
主に障碍者の就労支援を目的とした事業を展開