対談シリーズ第二弾「骨盤」(全2回)
◆対談講師
総合司会:青山 朋樹 先生(整形外科医)
柔道整復師:大澤 訓永 先生
第一回目「産前産後の骨盤」
青山先生 : さっそくですが、よく臨床家の間では、「骨盤はそもそも動くのか?あるいは歪むのか?」といったことが色々なところで議論になっていますけれど、大澤先生は臨床現場においてどのように骨盤の歪みについてお考えですか。
大澤先生 : 私たち施術家の立場では、レントゲンを自ら撮影できる立場でもないですし、一人のレントゲンを複数枚撮影してずっと観察できる環境は難しいです。
だからその手段としては、手で感じる事がメインとなります。そのうえで、触診力がとても重要になってきます。そのためには、ランドマーク(体を触るうえでの目印)を取れるかが非常に大切です。
私は、上前腸骨棘であったり、腸骨稜の上部、後上腸骨棘、坐骨、正中仙骨稜…であったりとか、手の触圧でランドマークを診ながら、左右差、高さ、捻じれなどを観察します。
立位・仰臥位・伏臥位など、細かい診方はかなりありますが、
その中で、患者様・クライアントに伝わり易い表現を重視して、仰臥位で以下の様に大きく3つに分類しています。
① 腸骨稜の高さの差。
② 上前腸骨棘の上下・前後の高さ。
③ 両脚、腸骨の開閉の左右差。
青山先生 : 肉眼で見ても骨盤の歪みなどをみかけますが、レントゲンを撮りますと、結構左右の開きですとか歪みだったりが確認されますので体幹との間だけでなく骨盤自体の歪みはあるのではないかと思います。
ただ、歪みの差はわずかだったりするので、通常の方法ではなかなかそれを捉えられない方が多いでしょうか。
もともとの解剖学的構造をみると、仙腸関節であったり、恥骨結合というのは歪みや左右差が出てもおかしくない関節構造なのではないかなとは思うのですけど。
大澤先生 : 現段階で計7回参加している、海外医学部の人体解剖で、実際にご検体の仙腸関節を開く事が出来ました。
そうすると触ってもやはり、仙腸関節の関節面がツルツルで綺麗なんですよね。
それを見た時に感動して鳥肌が立ったのと、「これはちゃんと関節構造を成している。」と思えたのを覚えています。
もう一体のご献体の場合は、ご高齢であったので仙腸関節の中に「石灰沈着」がありました。
石灰沈着が無い関節面部分は綺麗になっていて、関節液のようなものまであり、「関節=動くべきもの」と私的には確信しました。
「動かないもの」であったら、すでに癒合して、骨盤帯として1個に固まっているはずです。
人類の進化の段階で仙腸関節は動くために人体構造に残存している。という認識を海外人体解剖に参加して確信しました。
青山先生 : 解剖書にも書かれていますが、仙骨の耳状面。これなんかは成人までは関節軟骨が表面を覆っていますし、周辺には滑膜がありますので、いわゆる「滑膜関節」関節構造としては可動関節に分類されるものですよね。ただ高齢になってくると石灰化とか、関節面に凹凸ができてきますね。
大澤先生 :滑膜があるという事は、関節液を分泌しているということですよね?
青山先生 : そういう事になりますね。
若年期とか、高齢に至るまでにとかその可動関節であったものが少しずつ不動関節になっていくようです。
大澤先生 : 関節面に凹凸ができているのも海外人体解剖で確認しました。こうなると、動かないようになってくるのだなと感じました。
青山先生 : そうですね。実際に計測してみると、やはり1ミリ2ミリというような歪みでしてレントゲン上は確認できます。ただ、局所のところにおいては歪むところが1ミリ2ミリですが、その歪んだ局所から離れていくとその分その歪みは大きくなります。だからその歪みは大きくでてくるのではないでしょうか。
大澤先生 : 角度で言うと1~2°がその場所から離れた先端になれば、なるほど距離は大きくなるという距離感ですよね。
青山先生 : 恐らく付いている筋肉だとか、骨、関節とかは、遠くなればなるほどその影響は大きくなるでしょうから、
これによって歪みによる不具合とか、歩きにくさとか、違和感とかが出るのではないでしょうか。
筋肉とか筋膜は、キネティックチェーン(運動連鎖)で繋がっていますから、恐らく大きく全体に影響を及ぼすでしょうね。
大澤先生 : その通りだと思います。私も骨盤やそれ以外を診るとき、施術をするときは筋膜・キネティックチェーンをとても重視しています。人体解剖で実際にあの筋膜の連結を観て、触れて、感じてしまってからは、それ以前の意識していた施術に自信が持てたのと、大~~きく進化しました(笑)
レントゲンを観ていても、石灰化がおこるというのを聞いた時、やっぱりこれは早めに治すのが必要というか、年齢が経ってから戻すっていうのは難しいのかなと感じますよね。
青山先生 : 難しいでしょうね。
大澤先生 : 女性では、一番歪み易いのは産中・産後の時期で、その時期はとても大切な時期なのかなと思いますね。
青山先生 : 私たちが調査したこれまでの研究では骨盤の「妊娠前」「妊娠中」「産後」で比べてみますと、「妊娠中」が一番開きますし、歪みます。
産後は少し閉じるのですが、妊娠前の状態には戻らないというのが結構多くて。女性にとって結構ショッキングな事かと思います。
大澤先生 : 腹腔・骨盤腔内にお子さんなどがいた時に内側からの圧・重力などで、骨盤が開いていって、産まれてそれが無くなったからといって、もとのとおりに戻る訳じゃない。
青山先生 : そういうことですね。特に妊娠中はリラキシンホルモンが出て、骨盤が緩んで、一番骨盤などの可動性を持つ時期です。そのリラキシンホルモンとかが消退してしまうと、もとに戻すのが結構大変になる。
ですので、ある程度、産後のある時期に矯正というのはしておかないと、歪みはのこってしまうと思うのですが。
どうですか、結構、産後の産婦さんなどがお見えになって、矯正されることもあると思いますが、その時期は割と戻り易いという実感はありますか?
大澤先生 : はい。実感はあります。全身の他の関節も、柔らかい時期じゃないですか。
なので、骨盤に関しても戻しやすいと感じています。
ただ、同時に悪い方に歪みやすい、戻してもまた歪みやすいというのもある事で、「変化が大きい時期」という風に把握しています。
良い骨盤の位置にキープできるような筋トレも合わせて指導が必要と考えています。
青山先生 : そこが重要なところで、子育ての間は結構赤ちゃんを抱っこしたり、筋力が低下して良好な姿勢を維持する事も難しかったり、家庭内でさまざまなストレスもあるので、身体の使い方とかも指導しないと、せっかく矯正しても元に戻ってしまいますでしょうか。
大澤先生 : もともと女性は、男性に比べて元々筋力が弱い中で、胸を張ってきれいな姿勢を意識したり、大きなカバンをもっていたり、悪い姿勢で座っていたり、骨盤に対して加重・負荷をかけている状態が多いです。そこに自分の身体の加重だけじゃなく、赤ちゃんの重さが加わる。赤ちゃんは、3、4kg・・・と日に日に成長していく。ダッコ、おんぶの仕方・姿勢によっても影響は大きいと思いますね。
青山先生 : 皆さん骨盤に関しては「前傾」「後傾」のことを注目していますが、やはり左右方向だとか、前後方向だとかの歪みだとかは、この時期に治していかないと後からは矯正が難しいように思います。
大澤先生 : その通りと私も思います。
少し戻りますが、「伝わり易い表現での3つの分類」としましたが、実は全体をみたユニットとしての診方もしておかないといけないと考えています。
左右・前後の全体の筋バランス、側弯の有る・無しなど・・・全体を見てからの指標というものが必要と思います。私個人の施術としては、一般の方に対してこまごまと身体の情報を全て相手に説明しない事が多いですが(笑)、施術に必要なのでその部分には注意して診ています。
青山先生 : 妊娠中は、赤ちゃんがどちらかに向いていますので、右側か左側かに寄っていますから、周りの脊柱にくっついている筋の伸長なども変わってきてしまいます。
大澤先生 : しかも、1年の間にお腹の中でどんどんと変わっていって。
青山先生 : そうなると、局所だけ治療しても中々効果が得られないことから、周辺の組織を調整しないと意味がないですね。
大澤先生 : そうですね。
施術では腸骨稜を引っ張っている箇所や、下肢の筋・筋膜に対するストレッチなど、骨盤から離れた箇所も必ずアプローチしていますね。
青山先生 : では具体的に現場ではどのように評価をしているのか伺っていきましょうか。
この続きはまた次回。
解剖実習アカデミー事務局
・講師紹介(アイウエオ順)
青山 朋樹 先生
京都大学大学院医学研究科 人間健康科学系専攻
リハビリテーション科学コース 理学療法学講座 運動機能開発学分野 准教授
解剖実習アカデミー 解剖実習シラバス、ブログシリーズ監修
他、多数のセルフケア機器、再生医療製品の開発を行っている
◆主な研究テーマ
幹細胞生物学、再生医学、運動器医学、リハビリテーション医学
◆専門分野
リハビリテーション医学、整形外科学、再生医学
京都大学 青山研究室↓↓↓
https://humanalysis-square.com/member/
大澤 訓永 先生
Diploma of Remedial Massage (オーストラリア国家資格)
はり灸師、あんま・マサージ・指圧師、柔道整復師、登録販売者(2,3類医薬品)
(社) 日本BMK整体協会 代表理事
(社)JAPAN AUSTRALIA THERAPIST ASSOCIATION AIGASHO 本部講師/技術監修
他、訪問・高齢者に特化したメソッドの開発、
ビューティーセラピストへの知識・技術指導などの活動を全国にて行っている。
https://bmkbiken.or.jp/
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