私自身が解剖実習を行った時にとても印象的だったものが神経です。骨や筋肉、靭帯などの軟部組織はその硬さや可動性を普段の臨床を通して外部からある程度想像がしやすいのですが、神経に関しては解剖を行うことで初めてその様子を生で知ることができました。今回はこのようなテーマで執筆をしたいと思います。
まず神経に関して、その根本は脳から始まります。脳のある頭蓋の内面には、脳を包む硬膜が張り付いています。硬膜の一部は2枚に分かれて、間に硬膜静脈洞を挟んでいます。頭蓋腔の中は前方・中間・後方と三箇所が凹んでおりそれらを前・中・後頭骨窩と言います。
ここから脳神経についてまとめていきます。まず前頭蓋窩の中央に細かな孔が空いていますがそれは篩骨の篩板と言って、Ⅰ番の嗅神経が通り抜ける場所になります。次にⅡ番の視神経は眼球に向かうように、Ⅲ番の動眼神経、Ⅳ番の滑車神経、Ⅵ番の外転神経は眼球を動かす筋肉に向かっています。前頭蓋窩と中頭蓋窩の境目を蝶形骨の小翼が作っていますが、その内側の端にある丸い孔、これが視神経管でⅡ番が通ります。その外側に細長く伸びている上眼窩裂をⅢ番、Ⅳ番、Ⅵ番が通ります。もうひとつのⅤ番の三叉神経は3本の枝に分かれて、第一枝は上眼窩裂を通って眼窩へ、第二枝の上顎神経と第三枝の下顎神経はそれぞれ中頭蓋窩の正円孔、卵円孔を通ります。 Ⅶ番の顔面神経とⅧ番の内耳神経は中頭蓋窩と後頭蓋窩の境目にある錐体の後面にある内耳孔を通っていきます。Ⅸ番の舌咽神経、Ⅹ番の迷走神経、Ⅺ番の副神経は内頸静脈と同じ孔つまり頸静脈孔を通って出ていきます。最後にⅫ番の舌下神経は後頭孔の縁に開いている舌下神経管を通っていきます。脳神経の走行を理解するには頭蓋骨の形状・位置関係の理解も必要ですが今一度復習していただけたらと思います。
次は頸部周囲の神経を確認していけたらと思います。ここで有名なものは腕神経叢です。これは頸神経の5番から8番と、胸神経の1番の合計5本の脊髄神経が集まってできています。合流したり分かれたりを繰り返して4本の太い神経になって腕へ走行しています。腕へ走行する太い3本の太い神経をたどっていくとMの字のような分岐を作って繋がっています。Mの字から分かれる枝が3本あって、中央が正中神経、外側が筋皮神経、そして内側が尺骨神経です。 ここで今一度脊柱周囲に意識を向けてみます。脊柱の棘突起と椎弓の一部を取り除くと脊柱管が開放されます。脳と同様に脊髄は3層の髄膜に包まれています。外側は丈夫な結合組織性の硬膜、内側は脳と脊髄の表面に密着する軟膜です。そして両者の間を繋ぐ柔らかい結合組織がクモ膜です。この幕の中に脊髄神経が走行していて、それぞれの髄節から末梢に向けて神経が出ていくわけですね。
ここから下肢の方を見ていきますが、腰部には腰神経叢と呼ばれる束があります。これは第12胸神経~第4腰神経の前枝から構成されており、腰椎の両側で大腰筋の中に隠れます。筋枝は腹筋、大腿の内側面、前面の筋を支配し、皮枝は外陰部、鼠径部、大腿の前面、内側面及び下腿の内側面に分布しています。腰神経叢は脊髄神経から分岐し背中・腹部・鼠径部と下肢のうち大腿・脹脛・足に繋がる仙骨神経叢と相互に連結しているためこれらを合わせて腰仙骨神経叢と呼びます。そして最後に馬尾ですが、脊髄後位の脊髄神経と終糸がともに並ぶ部位です。脊髄後位の仙骨神経、尾骨神経は椎間孔を出るまで、ほとんど終糸に併行して走るようになり、その形が馬の尾に似た形態を示すため、この部位は馬尾と呼ばれます。今回は脳から馬尾にわたるまでの神経の流れを確認しました。また解剖実習の参考にしていただけたらと思います。
【田代雄斗先生プロフィール】
愛知県豊橋市出身。
京都大学医学部人間健康科学科卒業
同学科にて理学療法士資格を取得し、同大学院にて主に腰痛・物理療法・障碍者の就労支援に関する研究を行う。
〈現在の活動〉
・ボート競技のトレーナー活動
今後障碍者ボート競技においては国際クライファイヤー資格取得予定
・競走馬のコンディショニング
下肢や腰部の障害予防や、レース後の疲労回復などを担当
・株式会社HILUCO 代表取締役
主に障碍者の就労支援を目的とした事業を展開
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