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2019年6月11日更新

「腰痛と解剖①」理学療法士 田代雄斗先生のコラムスタート

初めまして、理学療法士の田代雄斗と申します。この度、解剖実習アカデミーにコラムを執筆する事になりました。実際に行ったハワイ大学での解剖実習の経験と理学療法士としての経験をもとに、より身体の理解を深められるようなコラムを執筆していけたらと思います。どうぞよろしくお願いします。
(*プロフィールは下記)

 

今回は「腰痛と解剖」

腰痛は非常に多くの人が経験する体の不調であり、平成22年に厚生労働省で全国的に行われた病気やけが等で自覚症状のある者(有訴者)の調査においては、男性では1位、女性では2位となっているほどです。一言に腰痛といってもその病態は様々であり、治療のためには腰痛について深く理解することが必要だと考えられます。今回は記事を通して解剖的な知識を今一度確認すると共に、腰痛のより効果的な治療に繋がるよう勉強していただけたらと思います。

まず腰痛は大きく特異的腰痛と非特異的腰痛に分かれます。特異的腰痛とは医師の診察および画像の検査(X線やMRIなど)で腰痛の原因が特定できるものを言い、非特異的腰痛とは検査を行っても原因が特定しきれないものを言います。特異的腰痛の代表例としては、腰椎椎間板ヘルニアや腰部脊柱管狭窄症、また高齢者の骨粗鬆症に起因する圧迫骨折が多く報告されています。また整形外科疾患以外にも結核菌を含む最近による背骨の感染(感染性脊椎炎)や癌の脊椎への転移、また尿路結石や解離性大動脈瘤なども特異的腰痛と分類されます。非特異的腰痛に関して、多くは椎間板のほか椎間関節、仙腸関節といった腰椎の関節部分、そして背筋など腰部を構成する軟部組織のどこかに痛みの原因がある可能性が高いですが、特異的腰痛のように厳密に断言できる検査法がないことから痛みの起源を明確にすることが困難な場合もあります。しかし、特異的腰痛、非特異的腰痛それぞれにおいて解剖学を理解することは原因を探し出すことにおいて非常に重要であると考えられます。

まず特異的腰痛において発生頻度の高い腰椎椎間板ヘルニアと腰部脊柱管狭窄症、圧迫骨折を例に挙げて解説をしていけたらと思います。腰椎椎間板ヘルニアは、背骨の椎体と椎体の間にある椎間板が突出あるいは脱出し、坐骨神経の始発部分である腰の神経(主に神経根)が刺激されることにより症状が生じる疾患です。この椎間板は中央の髄核と外側の線維輪で構成されています。髄核は水分を多く含むゲル状の物質からなり、線維輪は丈夫なコラーゲン繊維からなる帯状のシートが何枚も重なった構造をとっており、中央の髄核を取り囲んでいます。年齢を重ねていくにつれてストレスなどで髄核の水分が減少して変性がおこるので、解剖実習を行う際に異常のないものを見ることは難しい場合もありますが、部位によっても変性の度合いが違う場合もあるため注意深く観察していただけると良いと思います。

また腰部脊柱管狭窄症に関しては、腰椎の加齢変化に伴い腰の神経が圧迫されることに起因します。背骨の中の空間にある脊髄馬尾神経の背側には、背骨を結びつける黄色靭帯と呼ばれる組織があり、上下の腰椎を支えています。この黄色靭帯は加齢とともに肥厚や石灰化という変化が生じてきますが、これらの変化が強くなると脊柱管が相対的に狭くなり、脊髄馬尾神経が圧迫されるようになります。また圧迫骨折は身体の前方側にある椎体部分がつぶれるように骨折してしまう病態で、骨粗鬆症によって骨がもろくなっていると起こりやすい病態です。それぞれ高齢者に起こりやすい病態であることから高齢者の解剖実習を行う際には観察できることもあるためこちらも注意深く見ていただけるとよいと思います。

今回は主に特異的腰痛の解説と共に解剖学の確認を行いました。また次回は非特異的腰痛の解説もしていけたらと思います。

 

 

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田代雄斗先生プロフィール

愛知県豊橋市出身。
京都大学医学部人間健康科学科にて理学療法士資格を取得し、同大学院にて主に腰痛・物理療法・障碍者の就労支援に関する研究を行う。

〈現在の活動〉
・ボート競技のトレーナー活動
今後障碍者ボート競技においては国際クライファイヤー資格取得予定
・競走馬のコンディショニング
下肢や腰部の障害予防や、レース後の疲労回復などを担当
・株式会社HILUCO 代表取締役
主に障碍者の就労支援を目的とした事業を展開