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2019年9月12日更新

「変形性膝関節症に伴う膝関節痛」と「関節軟骨や滑膜組織等の関節構成体の関係性」


第2回では、変形性膝関節症に伴う膝関節痛と、関節軟骨や滑膜組織等の関節構成体の関係性についてお話します。東京大学の大規模コホート調査では、変形性膝関節症者の約半数で関節痛を有するとされています。人工膝関節置換術を行った場合でも20%の症例で関節痛が残存する1、という報告を踏まえると、関節構成体の変化のみでは関節痛を説明しきれないことは自明ですが、両者の関係性に対する基本的理解は重要との認識の下、最新の知見を交えながら関節痛の原因について解説します。

<関節痛の原因組織は骨や滑膜?>
関節軟骨内には自由神経終末がないため、関節軟骨がすり減っても、ヒトは痛みを感じません。では、関節痛の原因組織は何でしょうか?2011年に報告されたシステマティックレビュー*1によって、関節軟骨を支えている軟骨下骨の骨髄病変および滑膜炎と関節痛との関連性が明らかになりました2。関節痛発生メカニズムにおいて、骨や滑膜組織が重要な役割を果たしている可能性があります。
また、脛骨大腿関節だけでなく、膝蓋大腿関節も忘れてはなりません。膝蓋大腿関節は関節痛との関連性が強く3、関節痛の発生源になりやすいと言われています。変形性膝関節症者の7割弱は膝蓋大腿関節の関節症変化を伴う事実を踏まえると4、膝蓋大腿関節も注意深く観察する必要がありそうです。

<滑液中の老化成分が関節痛を招く?>
関節腔内には滑液が存在し、従来この滑液は潤滑油や軟骨栄養剤として認識されてきました。しかし2019年4月、加齢マウスの膝関節滑液から抽出した細胞外小胞*2を若齢マウスの膝関節に注入すると、若齢マウスに変形性関節症が発症し、関節痛を引き起こすとの論文が発表されました5。滑液の細胞外小胞に含まれるマイクロRNAが関節軟骨変性、さらには上述の骨や滑膜に変化をもたらした可能性があります。変形性関節症を関節軟骨のみの疾患ではなく、関節全体の障害“Whole joint disease”として認識する重要性を示しています。

*1臨床的疑問について、数多くの研究を網羅的かつ再現性ある方法に準じて収集し、その時点における結果のまとめを行ったもの
*2あらゆる細胞から細胞外へ分泌されるナノ~マイクロサイズの小胞。小胞内には遺伝子発現制御に重要な役割を果たすマイクロRNAを保持しており、細胞間コミュニケーションツールとして近年注目を浴びている

引用文献
1. Beswick AD, et al. What proportion of patients report long-term pain after total hip or knee replacement for osteoarthritis? A systematic review of prospective studies in unselected patients. BMJ Open 2012; 2: e000435.
2. Yusuf E, et al. Do knee abnormalities visualised on MRI explain knee pain in knee osteoarthritis? A systematic review. Ann Rheum Dis 2011; 70: 60-67.
3. Kornaat PR, et al. Osteoarthritis of the knee: association between clinical features and MR imaging findings. Radiology 2006; 239: 811-817.
4. Iijima H, et al. Clinical Impact of Coexisting Patellofemoral Osteoarthritis in Japanese Patients With Medial Knee Osteoarthritis. Arthritis Care Res (Hoboken) 2016; 68: 493-501.
5. Jeon OH, et al. Senescence cell-associated extracellular vesicles serve as osteoarthritis disease and therapeutic markers. JCI Insight 2019; 4.

 

【飯島弘貴 先生プロフィール】

飯島 弘貴(いいじま ひろたか)
理学療法士
人間健康科学博士(PhD)
京都大学大学院医学研究科 客員研究員
米国ピッツバーグ大学McGowan Institute 博士研究員

日本、米国にて関節軟骨疾患の病態解明や新規治療法開発に関する研究を行っている。京都大学医学研究科ならびにハワイ大学解剖実習における講義補助経験を有する。
米国ペンシルベニア州在住
家族構成 妻、長女