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お知らせ

2015年2月14日更新

ハワイ大学で解剖学を教えている先生をご紹介します。


解剖実習の参加の皆様へご紹介したい先生がおります。
ハワイ大学のキネシオロジー&リハビリテーションサイエンス学科で助教授をされている「大庭有希也 先生」が、解剖実習アカデミーのホームページで不定期にコラムを投稿して下さることとなりました。
毎日休みがない位の忙しい中、大庭先生の仕事の合間に書いて頂きますので、急に休刊なんてこともあるかと思いますが、皆様に正しい「解剖学の知識」をシェアして頂きたく、この機会を頂きました。

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はじめまして!

初めて解剖実習アカデミーさんを通して投稿させていただきます。ハワイ大学マノア校大学院でアスレティックトレーニングプログラムの教員をする傍ら、ハワイ大学医学部の短期解剖学研修の講師を務めている、大庭有希也(オオバユキヤ)と申します。アメリカのイチ大学で「博士」という肩書きを持ちながら、アスレティックトレーナーで献体解剖も教えている、という一見レアな立場からいろいろなお話をさせていただければと思います。

ここ数年、日本から献体解剖実習の機会を求めてハワイ大学医学部。各種医療従事者のプロフェッショナルの方々、体育大学、柔道整復、鍼灸の専門学校が学生の方々が、海を渡って短期研修に来られる機会が年々増えています。頭の中にある知識を自分の手でご献体に触れながら三次元で確認し、また新しい発見をしながら神秘にあふれた人体を探求していく。そうして得たモノが、皆さんのそれぞれの技術の更なる向上を導き、「患者さんを助ける」という最終目的に繋がる。私自身もアスレティックトレーナーのはしくれです。献体解剖をすることによって得られる様々な利益を実感してきました(学びの)。教育者としてもまだまだ未熟者ですが、こういった形で皆さんの目標へのプロセスの一端でお手伝いができる機会が増えている、ということ、大変嬉しく思っています。

献体解剖に携わる機会をいただくようになってまだ5年くらいですが、これまでにトータルで数十体のご献体を使用させていただきました。数をこなしていけばいくほど、自分の解剖の技術は向上し、解剖学の知識も揺るぎないものになっていきます。しかしそれと同時「あること」を忘れがちになってしまうんです。それは「自分が今向き合っているのは一つの尊い人間の命だ」という認識。こういったことは短期実習などで触れる機会がなかなかないので、ハワイ大学医学部が行っている取り組みを含め簡単にご紹介したいと思います。

ハワイ大学医学部(以下JABSOM。ジャブソムと発音。ジャ、にアクセント)に来られるご献体はJABSOMが運営するWilled Body Donation Program という献体プログラムが全て管理しています。生前に同意をされたドナーの方々が年間およそ50人以上、ご献体となりJABSOMに搬送され、教育や研究のために日々使勉強させていただいています。昨今、アメリカ全体の傾向では減少気味にある、と言われている医学部の献体数。しかし、JABSOMのWilled Body Donation Programでは医学生の教育や研究をカバーするのはもちろん、ハワイ大学医学部以外の医療関係学部や、外部の医療団体が主催するオペ機材のトレーニングや、私が携わっているようなアスレティックトレーナーを始めとする国内外の准医療資格保持者などを対象とした解剖実習を十分行えるほど、ご献体の数には大変恵まれています。これも、「自らの身体」という何にも変えられない財産を医学教育のために寄付する、という自己犠牲を厭わないハワイコミュニティーの方々の偉大な決断によって支えられていると言っても過言ではありません。このようにJABSOMでは100%ドネーションでご献体を受け入れているので、それぞれの名前、年齢、職業、既往歴などが記録として残っています。解剖を実際にする時、「私たちの目の前に横たわっているご献体はただの教材ではない」ということを、この情報を見ながら再確認します。私たちと変わらず、名前があります。喜怒哀楽に満ちた人生を歩まれました。その死を心から悲しんでいるご家族がいらっしゃいます。

これは私がお世話になっている先生が毎年解剖学の講義の一番初めにするお話。先生の授業を受講しているJABSOMの女子医学生がある日の暮れ、JABSOMの研究室から帰る時に、校舎のすぐ外で犬を連れたローカル*の老人にふと呼び止められました。「すいません、献体解剖室はこの校舎のどのあたりでしょうか?」彼女は「この入り口の左側あたりですよ。すみませんが、どなたかお探しですか?」と優しく尋ねると老人はこう答えました。「いやね、私の40年以上連れ添った妻が先日他界したのですが、妻は献体プログラムに同意していたので、この献体解剖室に今居るはずなんですよ。」そして老人はこう続けました「毎日この辺りをコイツ(犬)と散歩したいなぁ、なんて思いましてね。少しでも妻の近くにいれる、って気がして嬉しいんですよ。」彼はアイエアという車で20分くらいのところに住んでいるのですが、毎日JABSOMまで車で来て犬の散歩することを日課にする、と言っていたそうです。

そんなことを考えたり聞いたりすると、「解剖が楽しみ!」という単純にワクワクした好奇心や、「解剖初めてだから怖いなぁ〜」なんていう恐怖心が一瞬静まり、感謝と尊敬の念と緊張感がじわじわと湧き上がります。「尊い人間の命」を意識するようになります。「誰かの大切な人」と勉強させて頂いている、という気持ちになります。もちろん講義中や実習中は楽しく進めていきたいと思っていますが、この感覚は常に心の片隅に持っていたい、また受講される方にもぜひぜひ大切にしていただきたいな、と個人的に思っています。

解剖献体としての役割を終えたご献体は、しっかり最後までプログラムによって管理され、最後に荼毘に付されます。毎年春になると、ハワイの青い海を臨む公園で、献体のドナーのご家族や関係者を招いた「追悼セレモニー」が行なわれます。そこではJABSOMの学生やスタッフがドナーへの感謝と尊敬の意を込めたメッセージをご家族に送り、フラの舞いとオーケストラでその人生を讃え、終わりに学生がアウトリガーカヌーで沖に出て、ドナーの遺灰を海に散布します。ドナーの方はそこで「献体」から再び「人」になり、家族に戻るんですね。そんな素晴らしいハワイのコミュニティーとWilled Body Donation Programの支えで、我々は献体解剖実習を行うことができています。初回から少々重いテーマになってしまいましたが、もし今後皆さんがどこかでご献体と接する機会がありましたら、そんなことを考えてみていただけたら嬉しいです。

*ローカル:ハワイで言うローカルとは「ハワイ生まれ育った地元の人」の意

参考文献
1. Labrash, S. and S. Lozanoff “Standards and guidelines for willed body donations at the John A. Burns School of Medicine, 2007.” (0017-8594 (Print)).

◆「大庭有希也 先生」プロフィール

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大庭有希也
<経歴>
教育学博士(PhD)
ハワイ大学マノア校教育学部キネシオロジー&リハビリテーションサイエンス学部
エントリーレベル アスレティックトレーニング プログラム教員(助教授)
全米アスレティックトレーナー協会(NATA)公認アスレティックトレーナー(ATC)
全米ストレングス&コンディショニング協会(NSCA)認定スペシャリスト(CSCS)

アメリカ ハワイ州在住
家族構成 妻、長男、次男

 

 

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引用される場合は、必ず「ハワイ大学マノア校教育学部助教授 教育学博士 大庭有希也先生 記事より引用」と記述して下さい。
尚、弊社「解剖実習アカデミー」は大庭先生に学ばせて頂く場を設けたことであり、大庭先生を広告塔としてセミナーを宣伝するものではありません。
解剖実習で、大庭先生が必ず担当して下さるわけではございませんので、誤解のないようお願い申し上げます。

解剖実習アカデミー 代表 小池知恵子