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2015年7月2日更新

今回のご献体「ジョンソンさん(仮名)」を紹介します。

ご芳名:ジョンソンさん(仮名)(83)
職業:某大学プロフェッサー
持病:前立腺がん、背中が悪かった。右足を骨折したことがある。(事前に全員に知らされた病歴)

解剖中に確認出来た部分:足首に手術痕、肺がん(転移)、*¹動脈硬化
注釈・・・ ご献体される方々は、解剖実習後の献体の残し方を選択出来る。
1. ハワイ大学に研究として残すことを承認
2. 解剖後、家族への返還 (火葬して家族に返す)
ジョンソンさんは①でした。

私たちは必ずご献体の解剖をさせていただく前に祈りと黙祷を捧げます。この祈りは全て参加者個々の祈りを心の中で唱えます。アメリカだからといって、キリスト教にこだわらず自身の信心するもので良いという事です。ご冥福と研究させて頂ける感謝を伝える事が大切です。

さて、ご献体のプロフィールや奇病歴を解剖の先生方に紹介してもらった後に、解剖の手順や使用する道具の注意事項や使い方を習います。これはベーシックコースですので毎回行います。
ご献体に切開してゆくための目安となる線をマジックで書かせて頂き、それに沿ってメスを入れてゆきます。この時点で、誰がどの部位を切開してゆくのかは決まってきます。もちろん途中途中で担当する部位を交代しながら切り進めてゆきます。

ジョンソンさんは、体の大きなご献体だったので、脂肪除去で苦労することは視て分かった。それはどういう事かというと、参加者全員がかなりのスピードで脂肪除去をしていかないと予定通りに解剖が進まないという事だ。
少し乱暴な言い方になるが、脂肪除去するのに「いちいちメスを使っていられない」
「脂肪を手で鷲づかみしてハサミでカットしていく」これが現実だ。
最初は皆さん躊躇するが、2日間しかない時間の中で「時間切れ」だけは避けたい。だから私はそのやり方と「巻きの言葉」で皆さんのスピードアップをしていく役目だ。
アメリカ人特有の大きな体は本当に大変だが、そんな弱音はNG。
早く浅層の筋肉に辿り着かねばならない。

ジョンソンさんは、自覚のない「肺がん」があったようだ。前立腺がんの転移か?
そして考察出来る中の一つに「動脈硬化」があった。動脈硬化を触れる事が出来たのは良い経験だった。
これはまた別の時の記事にしたいと思う。

ジョンソンさんは足首に手術痕が確認できたが、結構な長さの傷跡だった。これはアキレス腱を切ったのか?他の怪我か?実際にどうしたかはわからないまま。
さてこの辺で富士子講師にバトンタッチ。補足をしてもらいます。

年齢を重ねても、まだまだ知らないことはたくさんある。解剖実習を重ねる度に「人体の奥深さ」は、毎回感じてしまうのだ。情報量があまりにも多すぎて、私の老化した脳にムチ打って気合をいれる。普段に接しているお身体の違いの大きさを考えても同様なことがいえる。何番から何番に付着しているという情報もパーセンテージの問題であって、実際には、1段ずれていたり、筋肉の大きさ・厚み・位置も違ってくる。肩甲骨の位置なんて こうも違うと 「ツボの場所が全然違うでしょ」と思う。私の特徴として「推理」することが最大の楽しみ。でも悲しいことに、本人には「そうだよ」っていってもらえない。私としては「どう成長期を過ごして、どんなスポーツを経験して、どんな仕事をして、どう生きてきたか」の答えを本当は知りたい。脂肪の蓄積に関しても「期間」「どんなものを食べていた」などなど「太ってからどうなった」なんて根ほり葉ほり知りたい。
こんな機会を得ることの意味はどういうことなのだろう。自分たちの人生にとって「解剖してきた」という驚愕的なことが残るよりも、「人間の身体ってこんなになっているんだよ」ということに満たされて欲しい。根本を追及するからこそ人間相手の仕事をしている自分の人生が更に面白くなることって多いと思う。だって、私達みんな好きな仕事に巡り合って、こうして自分の真ん中においているじゃないか!  (富士子)

roujin

記事担当:小池
記事監修:講師 富士子

(参考写真:photo AC 素材集より)