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2019年12月20日更新

「大腿四頭筋、実は第5の筋肉が存在する」理学療法士 飯島弘貴先生のコラム


 

大腿四頭筋には、実は第5の筋肉が存在することをご存じでしょうか?大腿四頭筋は、その名前のとおり、四つの筋肉(大腿直筋、内側広筋、外側広筋、中間広筋)から構成されるというのが一般的な認識です。私も解剖学の授業でこのように教わりましたが、以下に示す解剖献体のスタディをきっかけに、私の中でその認識が変わりつつあります。

 

<Tensor of Vastus Intermedius (TVI) の発見>
スイスのチューリッヒ大学で解剖学講座に所属するDr. Grobらの研究グループは2016年、解剖献体の26肢の全てにおいて、外側広筋と中間広筋の間に独立した筋肉を発見し、Tensor of Vastus Intermedius (TVI) と命名しました¹。TVIは大転子前外側や小殿筋筋膜から起こり、大腿外側を下行しながら大腿遠位三分の一で内側に向きを変え、膝蓋骨近位内側に終わります(図)。このTVIは、筋腹が大腿の近位三分の一に存在し、大腿中央から遠位にかけて中間広筋の腱膜と癒合することから、中間広筋 (Vastus Intermedium) から派生したものと考えられているようです¹。

彼らはその後もTVIのスタディを進め、TVIは大腿四頭筋腱の中間層の一部を形成することも明らかにしました²。興味深いことに、TVI近位と中間広筋ならびに外側広筋の間に結合組織をどの程度介するかについては個体差があり、5つのサブグループに分類できるようです¹。このような解剖献体におけるTVIの存在や5つのサブグループは、インド人36肢を対象にした研究グループによって裏付けられましたが³、12肢中7肢でしかTVIを確認できなかったというベルギーの研究グループの報告も存在します⁴。

上述のようにTVIは少なくとも一部の献体で確認されたわけですが、生体でTVIの確認は可能でしょうか?残念ながら、解剖献体のMRI画像上では、TVIと外側広筋ならびに中間広筋の間に明確な境界がありません⁵。一方、超音波を用いてTVIの筋腹および腱をそれぞれ大腿近位と遠位で同定した報告は存在します⁶。いずれにしても、TVIのような小さな筋肉と膜状の腱の同定には、深い解剖学的知識が求められそうです。

では、このような小さなTVIの機能的意義はなんでしょうか?現在までにこの問いに対する明確な答えは見当たりませんが、Dr. Grobらは、TVIの中間広筋腱膜との癒合や膝蓋骨上内側への付着から、中間広筋の筋張力発揮の補助作用や膝蓋骨の安定化作用などを有すると、2016年に発表した論文内で考察しています¹。

しかし、個人的にはこの考えに対して疑問視しています。仮に膝蓋骨の安定化において重要な役割をしているとしたら、TVIが欠損あるいは傷害された個体では、膝蓋骨不安定やそれに起因する関節痛が生じるでしょうか?Dr. GrobらはTVI発見の論文を発表した直後の2016年、MRI画像によってTVI単独損傷と診断した症例(60歳代女性)の2年半にわたる経過を報告しています⁷。その中で、TVIの損傷によって筋肉内血腫を認め、TVIの連続性が絶たれた症例であっても、膝関節自動伸展運動は完全に可能であったとしています。膝蓋骨の不安定性やそれに起因する膝蓋大腿関節の痛みを有したという記載はないようです。この症例の経過は、TVIは膝蓋骨安定化に重要な役割をする、という理論を説明しきれません。TVIの機能的意義を明確にするためには、何らかの手法を用いて生体におけるTVIの活動をとらえる以外に方法はないように思います。

もしTVIの存在やその機能的役割が明確になれば、既存の解剖学の教科書が大きく変わる可能性があります。TVIに関する研究報告は主にスイスのDr. Grobらの研究グループからなされたものであり、他の研究グループでの裏付けが欲しいところですね。

引用文献
1. Grob K, Ackland T, Kuster MS, Manestar M, Filgueira L. A newly discovered muscle: The tensor of the vastus intermedius. Clin Anat 2016; 29: 256-263.
2. Grob K, Manestar M, Filgueira L, Ackland T, Gilbey H, Kuster MS. New insight in the architecture of the quadriceps tendon. J Exp Orthop 2016; 3: 32.
3. Veeramani R, Gnanasekaran D. Morphometric study of tensor of vastus intermedius in South Indian population. Anat Cell Biol 2017; 50: 7-11.
4. Bonnechere B, Louryan S, Feipel V. Triceps, quadriceps or pentaceps femoris? Need for proper muscle definition. Morphologie 2019.
5. Grob K, Manestar M, Gascho D, Ackland T, Gilbey H, Fretz C, et al. Magnetic resonance imaging of the tensor vastus intermedius: A topographic study based on anatomical dissections. Clin Anat 2017; 30: 1096-1102.
6. Rajasekaran S, Hall MM. Sonographic Appearance of the Tensor of the Vastus Intermedius. Pm r 2016; 8: 1020-1023.
7. Grob K, Fretz C, Kuster M, Gilbey H, Ackland T. Knee pain associated with rupture of tensor vastus intermedius, a newly discovered muscle: a case report. J Clin Case Rep 2016; 6: 2.

 

 

【飯島弘貴先生プロフィール】

飯島 弘貴(いいじま ひろたか)
理学療法士
人間健康科学博士(PhD)
京都大学大学院医学研究科 客員研究員
米国ピッツバーグ大学McGowan Institute 博士研究員

日本、米国にて関節軟骨疾患の病態解明や新規治療法開発に関する研究を行っている。
京都大学医学研究科ならびにハワイ大学解剖実習における講義補助経験を有する。
米国ペンシルベニア州在住
家族構成 妻、長女